なぜ世界は不況に陥ったのか
なぜ世界は不況に陥ったのか 集中講義・金融危機と経済学
(2009/02/19)
池尾 和人 池田 信夫 商品詳細を見る
満足度★★★
今回の金融危機と現代経済学について、
池尾和人さんと池田信夫さんが対談した本。
タイトルである「なぜ世界は不況に陥ったのか」という
問いの答えは、「グローバルインバランスが縮小したため」と
なっています。
つまり、アメリカへの一極集中がなくなり、
世界は縮小均衡に陥ったということなのでしょう。
プロローグでは、いずれかが教授役、聞き役という区別なく
議論し合ったと書かれていますが、実際のところ、
池尾さんの話が中心で、池田さんは聞き手・進行役といったイメージです。
池田さんの聞き手という役どころも、どこか新鮮。
「“今回の金融危機の本質とインプリケーション”を明らかにすることを
目指した集中講義をおこないました。その中では、あわせて
“経済学の現代的な地平”とはどのようなものかについても語り合い、
そこからいまの事態がどのように見えてくるかも論じています」
議論は、今回の金融危機のメカニズム解明にとどまらず、
エージェンシー問題や、金融技術革新の展開、日本の経験と教訓まで
幅広く展開されています。
こういった金融危機が起こると、マスコミでは感情的な批判や、
短絡的な犯人探しをして、分かりやすい絵を描きがちになります。
例えば、「デリバティブ取引」自体が悪者として吊るし上げられるなど。
しかし、お2人は「リスクを取引する」ことの意義を、
1. リスクはプールすると減る
2. リスク許容量は経済主体によって異なる
3. 資本市場が持っている情報発信機能に寄与する
と挙げるなどして、あくまでも淡々と経済に必要な部分と、
行き過ぎていた部分、そしてその原因を分析し、議論を重ねます。
正直に言って、分かりやすい講義、熱くなるような議論とは
対極に位置します。
池尾さんと池田さんの見解はかなり近いものがありますので、
アウフヘーベンされている感じではなく、最初からレベルの高い所で
議論がなされている印象でしょうか。
経済学や現状の経済システムだけでは測れない、
心理的な側面からのアプローチが、もう少し欲しい気もしますが、
今後、日本が解決しなくてはならない問題を浮き彫りにするには、
必要な対談だったように感じます。 この本から何を活かすか?
「だいたい10年おきぐらいに“テールイベント”と
言われるものが起きるわけです。」
これはLTCMの破綻について議論されていた際、
市場が理論価格には戻らず、逆回転する現象が起こることについて、
池田さんが述べた言葉です。
要するに確率的には、めったに起こらないことが、
現実的には起こってしまうわけですね。
これについて私は、次のように教訓化しています。
100年に一度の危機(チャンス)は、10年に一度起こり、
10年に一度の危機(チャンス)は、毎年起こる。
これを意識しておくだけで、マーケットでの対処の仕方が
ずいぶん変わってくると思いますが、いかがでしょうか?
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