とてつもない数学
とてつもない数学
満足度★★★★
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永野 裕之 ダイヤモンド社 2020年06月05日頃
「昭和を代表する数学者の1人である
岡潔(1901~1978)は “数学というのは
闇を照らす光なのであって、白昼には
いらないのですが、こういう世相には
大いに必要になるのです” と書いている。
確かに数学は、時代が変革を求めれば
求めるほど必要とされる。」
「数学」は、人類の発展とともに、
私たちの生活を陰になり日向になり、
支えてきました。
本書は、その数学のとてつもない価値と
魅力を伝える本です。
古今東西、さまざまな数学に関する
エピソードが紹介されています。
著者は、永野数学塾塾長で一般に
数学の面白さを伝える本を多数執筆
している永野裕之さんです。
まず、本書の冒頭で「頭髪同数問題」
が紹介されています。
次の問題を考えてみてください。
横浜市内に、髪の毛の本数がまったく
同じ人は複数いるか?
条件として、横浜市の人口は約350万人、
人の髪の毛は多くて1人15万本とします。
「髪の毛の本数なんて、数えられない
からムリ」と考える人もいれば、
「なんとなく、いるんじゃないの」と
考える人もいるでしょう。
この問題、数学の考え方を使うと、
曖昧な直感を飛び越えて、
「100%確実に、いる」と答える
ことができます。
この問題で使うのは「鳩の巣原理」
という考え方です。
例えば、4羽の鳩に対して、3個の巣が
あったとします。
このとき、4羽の鳩が皆どこかの巣に
入るとすると、巣は3個しかないので、
2羽以上入る巣が必ず1つはできます。
これを数学で正しく記述すると、
次のようになります。
「正の整数nに対して、n+1個以上の
対象をn組に分けるとき、少なくとも
1つの組は2個以上の対象を含む」
こうして書くと難しく思えますが、
言っていることは、鳩の巣の例の
ように単純です。
この原理を使うと、「13人以上
集まると、誕生月が同じ人がいる」
ことが100%確実であると言えます。
同様に、頭髪同数問題についても、
350万人の人が、髪の毛の本数と
同じ番号の部屋に入ると考えます。
0本番~15万本番までの部屋に対して、
350万人が入るので、必ず2人以上
入る部屋ができます。
つまり同じ髪の毛の本数の人が、
確実にいると言えるのです。
「数学はこんなクイズのような問題も
たちどころに解決してしまう一方で、
国家戦略や企業判断にも積極的に
利用されている。(中略)
数学は、宇宙の法則を表す “言語”
としての役割も持っている。
一見複雑に見える科学の法則が、
たった1行の数式で簡潔にかつ完璧に
表されてしまう。」
本書は、そんな数学の「とてつもない」
魅力を伝える読み物です。
少しだけ数式は出てきますが、
エピソードが中心なので、数学が苦手な
人でも、十分楽しむことができます。
1章 とてつもない数式
― 数で世界のすべてを記述する
2章 とてつもない天才数学者たち
― 奇人・変人たちが抽象思考の
極北に挑む
3章 とてつもない芸術性
― 感性に訴える数学の「美」
4章 とてつもない便利さ
― 現代社会のテクノロジーを支える
5章 とてつもない影響力
― 世界史は数学とともに発展した
6章 とてつもない計算
― インド式、便利な暗算、数学パズル

本書から、豊臣秀吉と御伽衆と呼ばれる
家臣の1人、曽呂利新左衛門のエピソード
を紹介しましょう。
秀吉は、ある日、新左衛門を褒めて、
褒美をとらせることにしました。
すると新左衛門は次のように答えました。
「初日は米1粒、2日目は2粒、3日目は
4粒、4日目は8粒というふうに、
1粒から始めて、1ヶ月間、前日の倍の
数の米粒をください」
これを聞いた秀吉は「なんだそんな
ものでよいのか」と安請け合いします。
ところが秀吉は日を追うごとに、
とんでもない約束をしてしまったと、
後悔することになりました。
新左衛門の申し出通りに米粒を与えると、
1ヶ月後は5億3000万粒もの量になり、
これは200俵(12トン)にもなって
しまうのです。
これは累乗の持つ爆発的な増加を表す
エピソードの1つです。
Miss a meal if you have to, but don't miss a book.
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