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ikadoku

ビジネス書・ベストセラー本・科学本を中心に13年以上、ひたすら本を紹介し続けるブログ。既に紹介した本は3700冊以上。

こうして店は潰れた: 地域土着スーパー「やまと」の教訓

2018年10月29日
経営・戦略 0
満足度★★★
付箋数:21

著者の小林久さんから献本いただきました。
ありがとうございます。

  「私は経営者として失格だった。
  100年以上続いた家業を倒産させ、180名にも
  上る従業員を解雇して路頭に迷わせた。
  金融機関や関係者、長年の取引業者に迷惑を
  かけ、何よりやまとを頼みに生活している
  地域のお客様、とりわけ高齢者から買い物の
  手段を奪ってしまった。
  いまさらながら本当に申し訳なく思っている。」

1912年に韮崎市で創業したスーパーマーケット
チェーンの「やまと」。

この老舗スーパーは、2017年12月6日に、
その歴史に幕を下ろし、山梨県内に展開する
9店舗全店を閉鎖することとなりました。

本書は「やまと」元社長、小林久さんによる、
倒産のドキュメンタリーです。

「やまと」倒産の発表を受け、山梨県民から
「なくなると困る」、「今後の買物はどうする?」、
「ヴァンフォーレがJ2降格ぐらい山梨にとって
重大な出来事やん」などの声が寄せられました。

「やまと」は地元から愛されていました。

業界でも先んじて移動販売車を走らせて
「買物難民」を救済し、山梨県内のスーパーでは、
いち早く「ノーレジ袋」を推進しました。

また、ホームレスを雇用し、街の明かりを
消さないため、シャッター通りになった
中心商店街にあえて出店するなどしていました。

三代目社長の小林さん自身は、若くして山梨県の
教育委員長を務め、また「やまとマン」という
愛称で、弱い者を助け、地域住民から愛されて
いました。

そんな多くのファンを持つ、地域土着型スーパーの
「やまと」は、いかにして潰れたのか?

当事者である小林さんが、本書で赤裸々に、
その真相を語っています。

  「社長、今日納品予定の商品が入ってきません。
  業者に確かめたら、発注のシステムエラーが
  原因だそうです。いつ復旧するかわからないと
  言っています!」

  「おいおい、冗談じゃやない!
  商品が入っけこなければ商売ができないじゃ
  ないか。こんな大事な時期に大会社の
  コンピュータが故障なんて本当か?」

始まりは、クリスマス商戦に入る直前の、
このような会話からでした。

すぐに別の店舗からも連絡が入りました。

  「社長、魚問屋からも納品がありません。
  これではケースが空っぽになってしまいます!」

  「米問屋が売場から商品を引き上げています」

これまでも厳しい経営状況が続いていたので、
「やまとがヤバイ」という噂は、
巷ではよく上がっていました。

実は、この年「やまと」は、金融機関の
協力の下、加えて取引業者の支払いサイト
延長の協力などもあり、4年ぶりに経営黒字が
見込まれていたのです。

しかし、ちょっと今回は状況がおかしく、
今までとは違うと、小林さんは本能的に
感じ取っていました。

一度広がった信用不安は、噂が噂を呼び、
更に広がり、元に戻ることはありませんでした。

小林さんは、親しく付き合っていた取引先の
社長3人からのアドバイスも受け、
納入業者の連鎖倒産を避けるために、
体力のある内に、全店閉店を決断しました。

  「資産も人脈もノウハウもない田舎の
  スーパーマーケットが、巨大資本や地元の
  大企業と戦ってきた。勝てるはずのない
  戦いと知りつつも命を削り、知恵を絞って
  つないできた。
  経営者としては失格だった私が、もう二度と
  戻ることのない業界へ “遺言” を記して
  おこうと決めた。そして、私ができなかった
  地域への恩返しを、読んでいただいた誰かに、
  同じ過ちを繰り返すことのないように託したい
  と思った。」

正しいことを行っていても、残念ながら
それだけではビジネスは立ち行かなくなる。

小林さんの地域へ貢献したいという想いは、
非常に共感できます。

しかし、それだけでは中小企業が生き残って
いけないという厳しい現実がありました。

本書は、多くの中小企業には「教訓」となる
学ぶべきことが詰め込まれています。

この本から何を活かすか?

株式会社やまとは、ヴァンフォーレ甲府の
公式スポンサーの1つでした。

やまとは売上の5%をチームの強化費に
当てる「ヴァンフォーレ甲府応援どんぶり」
を298円で販売していました。

対戦相手にちなんだ17種類もの弁当を
販売していたようですが、これもなくなり、
地元の方にとっては寂しい限りですね。

Miss a meal if you have to, but don't miss a book.
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この記事を書いた人: ikadoku
毎朝4時に起きて本を読み、13年以上ブログで紹介記事を投稿しています。北海道在住。たまに旅行で長期の休みを取ります。

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