AI vs. 教科書が読めない子どもたち
付箋数:26
「私の未来予想図はこうです。
企業は人不足で頭を抱えているのに、
社会には失業者が溢れている――。
折角、新しい産業が興っても、その担い手と
なる、AIにはできない仕事ができる人材が
不足するため、新しい産業は経済成長の
エンジンとはならない。一方、AIで仕事を
失った人は、誰にでもできる低賃金の仕事に
再就職するか、失業するかの二者択一を
迫られる――。私には、そんな社会の姿が
ありありと目に浮かびます。」
このような未来を想像するのは、
国立情報学研究所教授、同社会共有知研究
センター長の新井紀子さんです。
新井さんは、数理論理学が専門で、
人工知能プロジェクト「東ロボくん」を
主導する方です。
「東ロボくん」とは、ロボットは東大に
入れるかに挑戦する人工知能プロジェクトです。
このプロジェクトでは、人工知能はまだ東大に
入れるレベルには達していないものの、
MARCHレベルの有名私立大には合格できる
偏差値には達しています。
そんな研究をする数学者が本書で明かすのは、
驚愕する2つの事実です。
1つ目は、シンギュラリティは来ないということ。
シンギュラリティとは、レイ・カーツワイル博士
により提唱された概念で、技術的特異点のこと。
シンギュラリティに達すると、人工知能が
人間の知性を超え、自分自身より高い能力の
AIを作り出すことができます。
人工知能の研究開発が加速し、2045年頃には、
シンギュラリティが到来するとも言われています。
しかし、新井さんは数学の常識として、
シンギュラリティは起こりえないと完全に
否定します。
なぜなら、人工知能は「意味」を理解しないから。
コンピュータは数学の言葉だけを使っているので、
私たちが認識していることを、すべて解明して、
数式に翻訳しない限りは、人工知能が人間の
知性レベルに達することはないのです。
2つ目は、日本の中高生の多くは、教科書程度の
文章を正確に理解する読解力がないということ。
これは新井さんが、全国2万5千人の中高生を
対象に行なった、基礎的読解力の調査から
判明したことです。
たかが読解力と侮ってはいけません。
入試において、読解力がなければ、試験問題を
早く正確に読めませんから、読解力は必須です。
入試以外においても、文を読んで理解することは、
非常に大切な力で、人生を左右する能力と
言っても過言ではありません。
そして、何より、人間が人工知能に負けない、
人間としての存在価値を示す能力でもあります。
この読解力がなければ、たとえ人工知能が
人間の知性のレベルに達していなくても、
簡単に人間の仕事が人工知能に代替されて
しまうのです。
この人間の読解力の低下が、冒頭で紹介した、
新井さんの未来予想図につながります。
将来、多くの仕事がAIに代替されると同時に、
AIにはできない新たな仕事が生まれる。
しかし、AIに仕事を奪われた勤労者は、
読解力がないと、新たに生まれた仕事もできず、
仕事に就くことができないという図式です。
これは、チャップアップさんの時代にも
起こったこと同じと、新井さんは指摘します。
工場がオートメーション化されたことで、
単純作業が減る一方、事務仕事が増え、
新たにホワイトカラーと呼ばれる労働階級が
生まれました。
しかし、工場で労働していたブルーワーカーは、
ホワイトカラーとしての教育を受けておらず、
新しく生まれた仕事に就くことはできなかった。
AIによってもたらされる未来も、これと同じ
構図になると、新井さんは考えているのです。
巷には、多くのAI関連書籍が刊行され、
バラ色とまでは言わないまでも、
シンギュラリティが到来することが、
当たり前のように語られています。
本書で新井さんは、世間で喧伝されている
AIの現状や未来図が、現実とかけ離れている
ことを指摘し、AIの限界を示します。
それと同時に、現在の人間側の教育にも
大きな問題があることを指摘しています。

基礎的読解力を測る「係り受け」の問題
次の問題をやってみてください。
アミラーゼという酵素はグルコースが
つながってできたデンプンを分解するが、
同じグルコースからできていても、
形が違うセルロースは分解できない。
この文脈において、以下の文中の空欄に
あてはまる最も適当なものを選択肢の
うちから1つ選びなさい。
セルロースは( )と形が違う
1.デンプン 2.アミラーゼ
3.グルコース 4.酵素
あなたの、基礎的読解力は大丈夫でしたか?
間違える人の多くは「3」を選ぶようですが、
正解は「1」のデンプンです。
Miss a meal if you have to, but don't miss a book.
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