風俗嬢の見えない孤立
2017年06月09日
付箋数:21
本書は、風俗嬢の本当の悩み事と
風俗業界の現状を知り、社会問題として、
その解決法を考える本です。
著者は、「夜の世界の課題解決」に取り組む
一般社団法人GrowAsPeople(以下GAP)の
代表理事の角間惇一郎さんです。
角間さんは、大手ゼネコンで建築士として
働いた後、2年間、性風俗店に勤めながら
そこで働く女性の実態調査を調査しました。
その後、GAPを立ち上げて風俗嬢の支援を
始めた方です。
GAPのアンケートによると風俗嬢の平均的な
稼働日数と収入は「12日で40万円」です。
昼の仕事をしている人から見ると、
一見、「楽に稼いでいる」と思われがち。
そんな彼女たちの最大の悩み事は、
昼の世界において、「立場を明かす」必要に
迫られた時です。
風俗で仕事をしていると知られた瞬間、
「なんでそんな仕事をしているんだ」と
非難され、白い目で見られます。
昼の世界の人の間には、「風俗店=ヤクザ」
「風俗嬢=エロい」という強烈な偏見が
あるからです。
角間さんが夜の世界で働いた経験
からすると、実際はそんな危ない世界
ではないそうです。
また、女の子も風俗を始めた理由は、
「なんとなく」が最も多く、本当にお金に
困って始めた人は意外と多くありません。
昼の世界の自分を常識人だと思っている人
からすると、「よく考えずに、そんな所で
働くほうが悪い」と思うかもしれません。
これは風俗嬢の問題を「入口」とする
考え方です。
一方、角間さんは、風俗嬢の本当の問題は
「出口」にあると考えます。
「仮に “風俗の問題” を “女性が風俗嬢に
なってしまうこと” そのものだとした場合、
その対策は “女性を風俗嬢にさせない”
一択です。しかし、そのために何をすれば
いいかと考えると、確実なのは
“性にまつわるビジネスを完全に消滅
させる” くらいでしょう。そして、
これは極端な理想論でしかありません。
一方、風俗の仕事の問題点を
“40歳頃には、やめなければいけなく
なること” であるとすれば、その対策は
ずっと明確になります。風俗嬢が、
セカンドキャリアをつくれるような
仕組みを生み出せばいいのです。」
風俗嬢は一生できる仕事ではありません。
ほとんどの人は、40歳前後までに
引退を余儀なくされます。
しかし、そこで昼の世界に戻ろうとしても、
履歴書に書けるような職歴はなく、
履歴書が真っ白な30~40代の女性を
雇ってくれる職場もあまりないのです。
この「40歳の壁」を境に風俗嬢の孤立が
深まっていきす。
そのためGAPでは風俗嬢がセカンドキャリア
を作るための支援を行っています。
ここで大切なのが、風俗の仕事をすぐに
やめさせずに、時間をかけて昼の世界に
移らせることです。
風俗をすぐにやめて昼の世界に移ると、
結局、その世界に順応できず、
また夜の世界に舞い戻って来る場合が
多いようです。
それは、週に5日8時間ずつ働き、
遅刻は許されず、給料が振り込まれるのは
1ヶ月先で、その報酬は夜の仕事の
数分の一という「昼の仕事の常識」には、
簡単には馴染めないからです。
そこでGAPでは、風俗嬢に対して、
風俗を「生計を立てる手段」から、
「副業」のポジションへスライドさせ、
徐々に昼のリズムへ移行させるように
支援しているようです。

風俗で働くことを「自業自得」と言って
しまえばそれまでですが、現実問題として、
風俗嬢の「出口問題」はあります。
私もこれまで風俗を色眼鏡で見ていた
ところがありますが、本書を読んで、
人を見るときに「過去を問わない」
付き合い方も必要だと感じました。
Miss a meal if you have to, but don't miss a book.
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