ニッポンの貧困
2015年09月05日
付箋数:25
日経BP社さんから献本いただきました。ありがとうございます。
日本が抱える最大の課題は何か?
この問に対して、少子高齢化、経済成長、エネルギー問題など、
人によって違う答えが返ってくると思います。
「日本の最大の問題を “貧困” と答える人は多くないだろう。
だがこの国で増殖を続ける貧困は、ほかの問題に勝るとも
劣らない大問題だ。少なくとも私はそう思っている。」
著者の中川雅之さんは、このように語ります。
では、日本の「貧困」とは、どのレベルのことを言い、
どの程度の規模なのでしょうか?
本書が根拠としているのは、厚生労働省が2014年7月に
まとめた「国民生活基礎調査」です。
この調査によると、日本の「相対的貧困率」は16.1%。
これは生きていくために最低限必要と考えられる食料や
生活必需品を購入するためのお金がない「絶対的貧困」とは
異なる定義です。
「相対的貧困率」とは国民を所得順に並べて、
真ん中の順位の人の半分以下しか所得がない人の比率。
先の調査では、可処分所得が年122万円に満たない人の
割合なので、ざっくり言うと月10万円以下で生活している人。
これが国民のおよそ6人に1人の割合で、
日本の相対的貧困者数は約2000万人です。
近い将来は、これが3000万人にもなると言われているようです。
この相対的貧困に陥る原因で、中川さんが注目しているのは
「教育」です。
「(貧困に陥る様々な原因)その中で恐らく最も多くの人を
困窮させやすくしている大きな仕組みについて触れたい。
それが “教育” だ。本来は人を困窮させない仕組みのはずだが、
“稼ぐ力の育成” という観点を失った教育投資は、
大げさに言えば、貧困の温床にさえなり得る。我々は何のために
学びの機会を欲するのか。本質的な議論が求められる。」
そして、本書の最も特徴的なところは、貧困対策を進めるべき
理由を倫理や善意ではなく、経済合理性に求めていることです。
「貧困投資はペイする」
本書では、最強外資と言われる、あのゴールドマン・サックスが
貧困に投資する事例を紹介します。
ゴールドマン・サックスが開いたシンポジウムでは、
貧困投資は1人当り7000万円~1億円の社会的利益を生むとの
発表がありました。
職業訓練など一切対策せずに、20歳から65歳まで生活保護を
受給した場合のコストは約6000万円。
一方、職業訓練を2年間実施して費用を500万円かけても、
仮に正規雇用で65歳まで勤めると4500万円程度の
税金を収めるので、費用を引いても4000万円のプラスになります。
つまり、貧困投資でマイナス6000万円がプラス4000万円に
転ずるため、社会的利益が1億円になるという計算です。
本書は貧困対策を慈善ではなく、投資という視点から
レポートしていますから、これまで慈善ではなかなか共感
できなかった人でも、興味を持って読むことができます。

本書の日本学生支援機構理事長へのインタビューでは、
「最も奨学金返還の延滞率が低い」学校が明かされていました。
その学校とは、「高等専門学校」。
「高等専門学校の子どもたちは5年間必至に勉強して、
手に職を付けて、社会に巣立って、引っ張りだこになります。
ですから延滞しない。」
へたな高校や大学より、高専に子どもを進学させるのが、
親としても子供の将来に、最も安心できるのかもしれません。
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