ファインマンさんの流儀
満足度★★★★
付箋数:20
「体面よりも真実を優先しなければならない。
自然をごまかすことなどできないのだから。」
― リチャード・P・ファインマン、1918-1988年
量子電磁力学の発展に大きく寄与したことにより、
1965年にノーベル物理学賞を受賞した、
物理学者のリチャード・P・ファインマンさん。
朝永振一郎さん、ジュリアン・シュウィンガーさんと
共同の受賞でした。
ファインマンさんには、数々の伝説的なエピソードがあります。
第二次世界大戦中には、ロバート・オッペンハイマーさんが
中心となって原爆開発を進めた、マンハッタン計画に
迷いながらも参加しました。
1986年に起きたスペースシャトル・チャレンジャー号の
爆発事故に際して、原因究明にあたるNASAの調査委員会
(ロジャース委員会)に参加しました。
テレビ中継された公聴会で、小さなゴムのOリングを
コップに入った氷水に浸ける実験を行い、チャレンジャー号の
継ぎ目を塞ぐために使われたOリングが、低温のもとでは
用をなさなくなることを証明して、世間に衝撃を与えました。
そして、一般にはファインマンさんがが友人などによく語る
エピソードを集めた逸話集が広く読まれています。
『ご冗談でしょう、ファインマンさん
『困ります、ファインマンさん
『聞かせてよ、ファインマンさん
これらの本では、好奇心旺盛で奇想天外に満ちた発想をする
天才科学者の一面が描かれています。
しかし、偉大な「物理学者」としてのファインマンさんの実績を
詳しく綴った本はあまりありませんでした。
「人間ファインマンは、今後も魅力的であり続けるだろうが、
彼の科学上の業績を通して、ファインマンの人物像を映し出すような、
短くて読みやすい本を書いてもらえないかと声をかけられたとき、
わたしは一も二もなく引き受けた。(中略)
わたしは、ファインマンの研究の、物理としての内容と、
その精神の両方を、ファインマン本人も納得するように、
正当に扱うように努力した。そのためか、本書はなによりもまず、
現在のわれわれが自然について理解している事柄が、
この水準に至るまでファインマンがどんな貢献を行ったかを、
科学者ファインマンの伝記として示すものとなった。」
著者はポピュラー・サイエンスの本も多く執筆する
宇宙物理学者のローレンス・M・クラウスさん。
天才科学者が本当に残した成果と、20世紀の物理学に
およぼした影響が詳しく書かれています。
そこからファインマンさんが、21世紀の謎が解明されるうえで、
どのような刺激を与えたかまでが伝えられています。
ファインマンさんの科学的な実績を、
現役の物理学者の目を通して、客観的に書いていますが、
根底にはファインマンさんに対する大きな尊敬を感じます。
本書は2012年1月に早川書房から刊行された本
実を言うと、私の手元には単行本版があるので、
最近刊行された文庫化版は読んでいません。
文庫化にあたっては、サイエンスライターの竹内薫さんが
解説を書いているとのことなので、セコイ話ですが、
その部分だけ立ち読みをしようと思っています。

訳者の吉田三知世さんは物理系の翻訳を多く手がけているので、
この分野の本は得意なところです。
結構前になりますが、当ブログでも吉田さんの翻訳本では、
『世界でもっとも美しい10の物理方程式』を紹介したことがあります。
今後、吉田さんの翻訳本では以下の本を読んでみようと思っています。
『万物の尺度を求めて
『量子の海、ディラックの深淵』
『あなたのなかの宇宙
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