そして日本経済が世界の希望になる
![]() | そして日本経済が世界の希望になる (PHP新書) (2013/09/14) ポール・クルーグマン 商品詳細を見る |
満足度★★★
付箋数:23
本書に「原書」はありません。
なぜなら、本書は訳者の大野和基さんが行った、
ポール・クルーグマンさんへのロングインタビューと、
その後のEメールでの質疑応答をまとめたものだから。
本書は、いわゆる「語り下ろし」です。
この事実が最初にわかっていれば、違和感なく読むことができます。
インフレターゲットを10年以上も主張してきたクルーグマンさん。
これまでクルーグマンさんの提言に耳を貸さなかった日本が、
安倍政権になって、やっと自説を試すことになったわけですから、
アベノミクスを評価しないわけはありあせん。
安倍さんに対しては、次のように賞賛しています。
「私がいま期待するのは、安倍首相の非日本人的な決断力が、
人びとの “期待” を変えるのではないか、ということだ。」
また、アベノミクス自体にもかなりの期待を寄せています。
「この政策実験がうまくいけば、まさに日本は世界各国の
ロールモデルになることができる。アベノミクスによって
ほんとうにデフレから脱却できるなら、それは将来同じ状況に
陥った国に対しても、大きな示唆になるからだ。」
ただし、アベノミクスで行われること全てを
クルーグマンさんは手放して評価しているわけではありません。
第1の矢である「大胆な金融政策」については、
もちろん大いに評価していますが、インフレターゲットは
2%でなく、4%を目指して欲しいと述べています。
第2の矢である「機動的な財政政策」については、
以前の著書では必要ないと考えていたようですが、
本書ではその考えを修正し、必要な政策であると賛同しています。
ただし、第3の矢「民間投資を喚起する成長戦略」には否定的。
なぜなら、政府が「勝ち組」を決めてはいけないから。
「そもそも、国家が成長戦略を定めるという
ターゲティングポリシーは今日、どこまで有効だろうか。
少なくとも明らかになっているのは、政府が “どの産業が将来、
勝ち組になるのか” ということを決めようとすべきではない、
ということだ。」
また、消費税増税についても大反対。
「かつて “1997” という映画があったではないか。
私の記憶が間違っていなければ、そのストーリーは、
消費税を3%から5%に引き上げたら、それが “1998年リセッション”
の引き金になった、というものだったはずだ。」
口述をまとめたものなので、わかりやすい言葉で
語られている反面、後半は話が変な方に進みます。
なぜか、日本の「英語教育」に言及。
日本が10年後に、イギリスの2倍のサイズの通貨を持った
独立国になるためには、まともな英語教育が必須であると
語られています。
正しいことを言っているとは思いますが、
クルーグマンさんの専門の話からそれてしまっているので、
本書の価値そのものを下げている印象を与えます。
インタビューですから、脇道にそれることはあっても、
編集でカバーできるところなので、
紙面を埋めるために載せるべきでななかったと思います。

本書の監修と解説は山形浩生さんが担当。
巻末に15ページほどの解説文を掲載しています。
「アベノミクスを離れたいくつかのトピックとなると、
いささか放談めいてくる。たとえばシェールガス革命。
(中略)また最後の “日本人はもっと英語を勉強しろ” が
クルーグマンから出てくるというのは、個人的には
ちょっと意外ではあった。」
クルーグマンさんをよく知る山形さんでも、
英語教育への言及には、違和感を持ったようですね。
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