「円安大転換」後の日本経済
![]() | 「円安大転換」後の日本経済 為替は予想インフレ率の差で動く (光文社新書) (2013/03/15) 村上 尚己 商品詳細を見る |
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次の言葉は、どんな地位の、誰の発言でしょうか?
「安倍さんのおっしゃっていることは極めて危険です。
なぜなら、インフレで喜ぶのは誰かです。
株を持っている人、土地を持っている人は良いですよ。
一般の庶民には関係ありません。
それは国民にとって大変、迷惑な話だと私は考えます。」
「安倍さん」という固有名詞が入っているので、
安倍さんと対談している人ということは予想がつくでしょう。
しかし、話の内容はどう考えても一介の主婦の発言です・・・・
実はこれ、野田佳彦さんが内閣総理大臣を務めていた時に、
テレビ朝日の討論番組で発した言葉です。
対談の相手は、当時、自民党総裁だった安倍晋三さん。
日本の舵を取るべき首相の発言が、あまりにも主婦感覚に
あふれていたため、安倍さんは驚きを隠せず、
次のように返します。
「びっくりしましたね。税収も名目経済が上がらなければ、
税収は上がらない。そのことが総理には基本的に
わかっていなかったということが驚きですね。」
野田さんの考えは、世界的な経済学の常識からは、
かなり逸脱したもの。
本書の著者、村上尚己さんは、このような日本独自の
経済についての特殊な考えを「ガラパゴス経済学」と命名。
「ガラケー(ガラパゴス携帯)は日本の市場のみに特化した
携帯電話のことだが、同じく日本でのみ大きく発展した、
“金融緩和を過度に恐怖視する” 経済の見方を著者は、
今後 “ガラパゴス経済学” (=ガラ経)と呼んでいきたいと思う。」
村上さんは、「ガラ経」を日本で広めた中心人物は、
第28代日銀総裁、速水優さんだと指摘しています。
日本では首相や日銀総裁も主張する「ガラ経」も、
世界ではまったく相手にされていないようです。
さて、本書はアベノミクスで日本がどのように変わるか
リフレ派である村上さんの予想が書かれた本です。
アベノミクスは、ほぼ村上さんの主張と重なります。
ですから、本書では、反リフレ派の池田信夫さんらへの
反論も述べられています。
また、本書では1989年から2011年までのドル円相場の動きを
細かく分析して、円高になっていたメカニズムを
多くの図表を用い、かなりのページを割いて解説しています。
ここが、村上さんが本書で一番力を入れて書いたパートです。
そして、日本経済が立ち直っていくために必要な、
適正なドル円のレートは、「1ドル=105円前後」としています。
アベノミクスが成功し、1ドル=105円程度になった場合は、
次のような展望が開けてくると述べられています。
1. 日経平均株価は1万3000円~1万5000円前後まで上昇する
2. 日本の景気は回復し始め、50万人以上の失業者に職が生み出される
3. 現在の財政赤字は10年以内に解消される
4. 給料が平均して年率3.5%以上は伸びていく
個人的には、日本にとって円安はメリットがあると思います。
しかし、日本には他の構造的な問題もあるので、
1ドル105円になるだけで、私は村上さんが言うほどの
バラ色の世界が到来することが想像できませんでした。

「海外の投資家は、中央銀行の総裁や投票権を持つメンバーが
どのような考えを持っているのか、そしてどのような考えで
金融政策を行うのかを、投資判断をする際の重要な情報として
注目している。」
これは、海外の投資家の注目点について書かれた部分ですが、
私たちが海外投資する場合も同じことが言えます。
各国中央銀行の利上げ派と利下げ派の比率だけでなく、
投票権のある個々のメンバーの考え方まで掴んでおくことが
投資判断をするには、けっこう重要だと思います。
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